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- エピソード―わたしと神経発達症
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周囲の理解について
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困っていること
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大人の神経発達症(発達障害)とは
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- 自分の特性を知る―医療機関に相談する
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大人の神経発達症(発達障害)の身近な相談窓口
相談窓口に聞いてきました
監修:小坂 浩隆先生(福井大学医学部精神医学 教授)
地域若者サポートステーション
(通称:サポステ)
サポステは、全国にある厚生労働省委託の機関1,2)で、働くことに悩みを抱えている方※が、働く一歩を踏み出すために無料でサポートを行っています。
※15~49歳の現在働いていない方で、かつ学校に在籍していない方
障害のある方への専門的な就労サポートを行う機関とは異なりますが、本人の希望や特性の状況によっては、そういった機関と連携しながら支援を行います。
神経発達症(発達障害)の方がサポステを訪れた場合の支援体制は、各地域や個々人の状況によって違います。サポステで支援を行う場合や、外部の専門機関への連携・紹介で支援を受けられる場合もあると考えられます。
一例として、新潟サポステではどのように就労サポートを行っているかを伺いました。
サポステが提供する支援内容や、神経発達症(発達障害)の方への支援体制は、地域の事情などに応じてサポステごとに異なります。
お住まいの地域にあるサポステの支援内容をご確認ください。
新潟地域若者サポートステーション
統括コーディネーター 河田 陽介さん
相談員 新美 建治さん
(2024年6月取材)
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Q1「サポステ」とは?
全国にある地域若者サポートステーション(サポステ)は、どんなところですか?
A1
働きたいけれど悩みを抱えている方に、一人ひとりに合わせた就労サポートを行います。専門スタッフとの面談や、就業体験、セミナー参加などを通じて、働くための力をつけて、職場に定着できることを目指す機関です。
厚生労働省が委託する団体が運営していて、全国に177か所あります。新潟県には、出張所も含めて7か所あります(2023年度データ)1)。
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Q2どんな人が利用できる?
サポステが支援する対象はどんな人ですか?
A2
15~49歳の、現在仕事をしていない方が対象です。
働きたいと考えている方なら、長年仕事から離れている方も、最近仕事を辞めた方も利用できます。
ただし、現在学校に通っている・職業訓練を受けている方は基本的には利用できません。
なお、新潟サポステの利用者は、男女比はほぼ同じで、20代が約6割を占め、30代が2割強、40代が2割弱となっています(2023年度データ)。
◆ サポステは、ジョブカフェやハローワークとは違う?
ジョブカフェは、正式には「若年者のためのワンストップサービスセンター」という機関で、50歳までの求職者や転職希望者を対象に、キャリアコンサルティングやセミナー、職場体験などを行う就職サポート機関です。現在仕事をしている方も利用できるのはサポステと違う点です。46の都道府県にあります3)(2024年8月現在)。
ハローワーク(公共職業安定所)は、求職者や求人雇用主に対して、求人情報を元にした「職業紹介」や「雇用保険」「雇用対策」など、総合的な雇用サービスを行う機関です(厚生労働省が運営)4)。
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Q3どんな悩みを相談できる?
サポステで、利用者はどんな悩みを相談できるのでしょうか?
A3
「コミュニケーションが苦手」「人が苦手」「面接が怖い」など、働くうえでの悩みをお聞きします。「やりたいこと・向いていることが分からない」など自身の適性を知りたいというご相談もあります。
「退職・退学後から悩んでブランクができた」「病気療養していて、主治医の許可が出たので働きたい」「勤めてもすぐに辞めてしまう。定着したい」「まだ働いたことがなくて不安」「ひきこもっていたけれど働きたい」など、様々な理由で働くことに自信がない方へのサポートもしています。
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Q4どんなサポートが受けられる?
サポステでは、どのようなサポートが受けられますか?
A4
①相談 ②セミナー ③ジョブトレ・職場体験 が主なメニューです。これらを一人ひとりに合わせたオーダーメイドのプログラムでサポートします。
①相談
1回当たり50分程度で、働く不安や対人関係の悩み、仕事選び、履歴書作成、面接練習など、就職までの悩みを一対一で面談しています。②セミナー
働くために必要な力を身につけるために、社会人マナーやコミュニケーションの講座、グループワークなどでトレーニングを行います。③ジョブトレ・職場体験
企業で実際に就労体験を行います。このほかに、④定着・ステップアップ相談として、就職後の仕事の悩みの相談に応えたり、パートから正社員を目指すステップアップの支援も行ったりします。
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Q5利用される経緯は?
どのような経緯で、サポステを利用される方が多いですか?
A5
新潟サポステに相談された方のうち、実際に支援を開始する方は年に約300人です(2023年度)。
自分自身でウェブサイトやパンフレットなどから利用申し込みされる方が最も多く、41%です。
次いで、ハローワークからの案内が36%です。仕事を求めてハローワークに来たが、働くうえでの課題がある、自分に合う仕事を考えてみたい、という方などをサポステにご案内いただいています。
そして、ほかの機関からの紹介が11%、親御さんの勧めが8%です。
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Q6どんなスタッフがいますか?
相談やサポートを担当するのはどんな方ですか?
A6
キャリアコンサルタントや臨床心理士などが、担当相談員となります。新潟サポステでは、ほかにも産業カウンセラー、精神保健福祉士などが在籍しており、課題や支援内容によって、担当相談員を決めています。
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Q7サポートの流れは?
新潟サポステでの、就職までのサポートの流れは?
A7
初回の面談(90分)で、悩みや困りごと、希望するサポートをまずお聞きし、担当相談員を決めて支援を開始します(図1)。いつまでに就職するか、そのために何が必要かなどを担当相談員と話し合い、どのようなサポートを行うか、セミナーやジョブトレなどのどのようなコース・プログラムに参加するかを決めていきます。そして、個々人によって、職業選択や応募書類作成のコースのほかに、体調や生活リズムを整えるコース、コミュニケーションや自身の得意・不得意を知るコースに参加するなど様々です。セミナー・ジョブトレなどに参加し、そのフィードバックもふまえて、就職に向けての相談支援を重ねていきます。
図1 新潟サポステでの就職決定までのサポートの流れ
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Q8支援の期間はどれくらい?
サポステは、どのくらいの期間、利用できますか?
A8
基本的には6か月での就職決定が目標ですが、それが難しい場合は、就労準備に1年半、就職決定までに1年半として3年以内の就職決定を目指します。正職員・アルバイト・パート・派遣を問わず、週20時間以上働く状態を「就職決定」としています。
実際は、6か月以内で就職していく方が多いのですが、課題が多い場合などは時間をかけて向き合って、働く準備をしていく方もいます。また、経済的な面での焦りから一刻も早く仕事を決めたいと一度は就職まで進めてみたけれど、うまくいかず、再びサポートを受ける方もいます。
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Q9ジョブトレとは?
ジョブトレはどのようなプログラムですか?
A9
ジョブトレは、一定期間企業に通って、働く体験をするプログラムです。
体験を続けることで、自分の得意・不得意に気づきながら、実際に働くイメージができていきます。就職後を見据えた生活リズム・体力の面でも自信がついていきます。
新潟サポステでジョブトレが体験できる仕事は、製造、事務、清掃、スーパー、IT、図書館、農業、介護、倉庫、猫カフェなど様々で、本人との相談を重ねたうえでマッチングしています。
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Q10神経発達症(発達障害)の方への支援体制は?
新潟サポステでは、神経発達症(発達障害)がある方の場合、どのように支援を行っていますか?
A10
新潟サポステでは専門的な障害者就労支援は提供していないため、必要に応じて新潟市発達障がい支援センター(以下、発達障害者支援センター)に連携していますが、本人の希望や特性の状況によって対応は異なります(図2)。既に診断のある方・ない方、特性に気づいている方、希望する雇用枠などによって様々です。
また、発達障害者支援センターの職員が定期的にサポステに出張支援に来ているので、身近に相談できる体制にあります。
既に神経発達症(発達障害)の診断があり、障害者枠での就職希望の申し出があれば、サポステからバトンを渡して、ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどで障害者就労支援を進めていきます。
一方、診断を受けているけれども、一般枠での就職を希望される場合は、新潟サポステで就労サポートをしています。発達障害者支援センターとの協力体制で支援することもあります。
働き方を迷っている方へは、発達障害者支援センターや障害者職業センターなどと協力しながら、新潟サポステでサポートします。
また、自分は神経発達症(発達障害)かもしれない、という方の場合も、本人の希望を確認したうえで、発達障害者支援センターと協力してのサポートとなります。そこから医療機関で診断を受ける方もいます。自身の障害を理解したり、その後の働き方などを考えたりしたうえで、就労サポートを行います。
図2 神経発達症(発達障害)のある方への新潟サポステでの主な支援体制
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Q11神経発達症(発達障害)に気づいていくケースは?
サポステでの支援の過程で神経発達症(発達障害)に気づくこともありますか?
A11
サポステでの様々なサポートの中で、働くうえでの困りごとに神経発達症(発達障害)の特性が影響している可能性が見えてくることがあります。
例えば、グループワークに入っていきにくい様子が見られた場合、そうしたことをきっかけに尋ねてみると、子供の頃から人とのコミュニケーションが苦手で一人でいることが多かった、仕事でもうまくいかなかった、という経緯が聞かれます。一般的にコミュニケーションが不可欠な仕事が多いので、「報告・連絡・相談がない」「分からないところの質問ができない」という問題を抱えている方が多いようです。
ほかにも、メモを取ることや、ファイル・書類の整理、段取りが苦手な方、全体的にはできるのにケアレスミスが多い方、セミナーで話が一方的になりがちな方など、様々な特性の方がおられます。
自分自身での認識を確認しながら、仕事ではどのような困りごとを抱えてきたか、時間をかけてお聞きします。本人が特性に思い当たった時は「一緒に勉強してみようか」、そして本人の意向によっては「一緒に専門の方に相談してみようか」と進めていくこともあります。ここでは、相談員になんでも話してみよう、アドバイスを聞いてみよう、と信頼していただける関係が大切だと思っています。
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Q12苦手なことへの対処は?
マナーやコミュニケーションなどの苦手なことにはどう向き合えますか?
A12
例えば、身だしなみ(髪や髭剃り、服装など)やあいさつなどのマナー、コミュニケーションなどは、個々人の資質に関係なく「仕事をするうえでは必要なこと」として指導しますので、伝わりやすいのではないかと思います。
また、ジョブトレでは、体験先の企業にあらかじめ、苦手なことなど(例:コミュニケーションが不得意など)を伝えたうえで始めるので、不安が少ないと思います。
ジョブトレ先の企業に就職できるケースもあります。
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Q13支援を受けることでの変化は?
サポステで支援を受けることで、どのような変化があるでしょうか?
A13
一つは「自分自身の整理ができる」ことです。「自分はいくら努力してもだめで、将来どうしていいか分からなかったが、いろいろな働き方があることや自分も働けることがサポステで分かった」という方がおられました。
また「居場所ができた」と感じる方もいます。年齢を重ねると、学生時代のような相談しあえる交友関係が薄くなり、孤独を感じる方も少なくありません。サポステを利用して就職が決まってからも、その先でなにか悩んだら相談できる場所があることは、支えになると思います。
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Q14働くことに悩みを抱えている方へのメッセージ
働くことに悩みを抱えておられる神経発達症(発達障害)の方へメッセージをお願いします。
A14
神経発達症(発達障害)のことで困っていても、なかなか相談しにくいかもしれません。ただ、仕事やお金の問題はきっかけにしやすいと思いますので、ぜひ相談してみてほしいです。
働くことの相談先に迷っている方も、お住まいの地域のサポステに相談することで、地域の適切な窓口を紹介してもらえると思います。まずは、気軽にご相談いただきたいです。
働くことに悩みを抱える方が、自分らしく働いて、未来を築いていけるよう願っています。
- 引用・参考文献
- 1) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/saposute.html (2024年8月アクセス)
- 2) https://saposute-net.mhlw.go.jp (2024年8月アクセス)
- 3) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jakunen/jobcafe.html (2024年8月アクセス)
- 4) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/hellowork.html (2024年8月アクセス)